昆布を薄く削ったとろろ昆布をよく食べる地域は富山と福井の敦賀、大阪の堺だと言われている。中でも富山市は2006年の総務省「家計調査」によると、富山市の1世帯あたりの昆布の年間支出金額は1960年から続けて全国1位だという。とろろの中でも、肉厚の昆布の表面外側だけを削ったのが「黒とろろ」で、ほのかな酸味が特長だ。旨みと風味がぎゅっと濃縮されたとろろ昆布を絡ませたおにぎりがまた美味で、ごはんにまぶすだけの手軽さと贅沢な味わいがいい。
おにぎりといえば海苔ではなくとろろ昆布を巻くのが富山県民の定番で、とろろ昆布を使った料理の代名詞。富山県は昆布の消費量が全国屈指ではあるが、実は県内で昆布はほとんど採れない。富山における昆布文化のはじまりは、江戸時代に日本海沿岸を運行していた北前船に起因する。各地の特産品を輸送していた北前船は富山(越中)も寄港地にしており、その際とりわけ北海道産の昆布が大量に購入されていた。また、明治時代には開拓者として北海道に移住した大勢の富山県民が、故郷にいる親類に昆布を送るなどの交流が生まれたことも深く関係している。現在もほとんどが北海道産である。
とろろ昆布は、酢漬けにした数種類の昆布を重ねてから固め、その表面を削り出して作られる。削る過程で表面の黒いとろろから中心の白いとろろへと変化する。富山県独特の黒とろろは酸味が強く、白とろろは酸味が控えめでソフトな食感。程よい酸味と旨みのバランスが絶妙なとろろ昆布はふっくら炊いた白米との相性が抜群である。