富山県

ゲンゲ

寒天質に覆われた深海魚の干物は、お酒の肴には最適

「幻魚」と書いてゲンゲ。ミステリアスなネーミングを裏切らないちょっとグロテスクな顔立ち。富山湾および近海の深海にひそみ、ホッコクアカエビを対象とした小型機船底びき網に混じって漁獲される。さまざまな種類があるが、最も食用に利用されるのが“ノロゲンゲ”で、全身が寒天質で覆われておりそのプリプリとした食感はツウ好みのおいしさ。県内でも海側ではスーパーで気軽に購入できるものの、少し内陸に入るとぐっと知名度が低くなる。家庭では味噌汁の具にするのが一般的だが、酒飲みには干物がうってつけ。脂乗り抜群の珍味だ。

富山湾は、日本三大深湾の一つで、海岸から急激に深い海底谷が広がっています。この湾の深い領域、水深1000メートル近くに達する地点には、水温がほぼ0度に近い「日本海固有水」と呼ばれる深層海水が存在し、さまざまな生物が生息しています。ホタルイカ、ベニズワイガニ、シロエビなどはよく知られていますが、最近注目を浴びているのがゲンゲという深海魚です。

ゲンゲは、水深200メートル以上に生息する深海魚で、体長は約20センチほどで細長く、透明感のある白い身を持っています。全身は分厚いゼラチン質で覆われており、大きなおたまじゃくしのような外見をしています。身には適度な脂があり、昔から漁村では味噌汁や吸い物の具材として利用されてきました。また、天ぷらや唐揚げに調理すると、柔らかくフワフワとした食感が楽しめ、干しゲンゲを軽く炙るとお酒のおつまみとしても最適です。

ゲンゲは富山湾で、9月から翌年の5月ごろに漁獲されます。特別な漁法はなく、底引き網を引き上げる際に、その特徴的なゼラチン質の体が網に絡まって一緒に引き揚げられます。以前は、ホッコクアカエビ(甘エビ)と同じ水深に生息しており、混獲されることが多かったため、漁師たちにはあまり好かれていませんでした。その奇怪な外見も、漁師たちの中では「下の下(げのげ)」と軽蔑され、捨てられることもあったと言われています。ゲンゲは非常に水分を多く含んでいるため、劣化が早く、すぐに生臭くなることから、漁村の家庭料理に限られた使われ方をしていました。

しかし、近年になって流通が改善され、割烹や料亭で天ぷらや唐揚げとして提供されるようになり、ゲンゲの独特の味わいが広まりました。そして、これまで地味だった「下の下」が、滅多に出会えない貴重な魚として「幻魚(げんげ)」と称されるようになりました。この名前は、富山湾でまれにしか見かけない「蜃気楼」や、食べた際に舌の上で幻のように溶けていく食感と重なり、ゲンゲの特性を素晴らしく表現しています。

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名称
ゲンゲ