富山県氷見市飯久保に佇む光久寺の茶庭は、江戸時代の作風を今に伝える由緒ある庭園です。自然の地形を巧みに生かした池泉回遊式庭園であり、丘陵の起伏を取り入れた山水造りの趣が、訪れる人の心を穏やかに包み込みます。静寂の中に漂う風雅は、まさに名園と呼ぶにふさわしい風格を備えております。
光久寺は、氷見市飯久保にある真宗大谷派の名刹で、山号を風香山と称します。寺伝によれば、大化年間(645~650)に創建されたと伝わる古い歴史を持ち、かつては真言宗の寺院として現在の氷見市仏生寺の吉池に所在し、「玄巣院」と呼ばれていました。のちに浄土真宗へと改宗し、長い歳月を経て現在の地に根を下ろしております。
また、浄土真宗の開祖である親鸞聖人が越後流罪の道中に逗留されたとの伝承も残り、地域の信仰と深く結びついた寺院として大切に守られてきました。寺には室町時代の寺領寄進状などを含む「光久寺古文書」や、「聖徳太子信仰関係資料」などの貴重な文化財も所蔵されており、市の指定文化財となっています。
茶庭は、江戸中期・宝永年間(1704~1711)頃に、加賀藩に仕えた能登の庭師駒造によって築かれたと伝えられています。駒造は加賀藩御用造園師として知られ、その技は高く評価されていました。本庭園は、城端・善徳寺の庭園と兄弟庭と伝わり、当時の作庭技法を今に伝える貴重な存在です。
広さ約660平方メートルの庭園は、自然の丘陵を背景に山・池・樹木・石を巧みに組み合わせ、まるで自然を凝縮した箱庭のような景観を生み出しています。富山県内でも江戸時代を代表する庭園の一つとして高く評価され、1965年1月1日に県指定名勝となりました。
光久寺の茶庭は、その美しさから別名「俯仰園(ふぎょうえん)」とも呼ばれています。これは「俯して見る池もよし、仰いで見る山もよし」という趣を表した名称です。
庭の中央には泉水が広がり、中島が静かに浮かびます。さりげなく配された石組みと植栽が絶妙な調和を見せ、背後の樹木と一体となって奥行きある景観を形成しています。飛び石づたいに巡ることで、視点が変わるたびに異なる表情を楽しむことができ、庭全体が一幅の絵巻物のように展開していきます。
また、正面に設けられた数奇屋風の渡り廊下が印象的で、御堂座敷と書院をつなぐ回廊と中庭に注ぐ清流が相まって、静謐で格調高い空間を生み出しています。浄土の庭園を意図して造られたといわれ、その精神性もまた庭の魅力の一つです。
光久寺の茶庭は、四季を通じて異なる景観を見せてくれます。春から初夏にかけてはサツキやツツジが鮮やかに咲き誇り、庭園全体を華やかに彩ります。特にツツジの季節は格別の美しさを誇り、多くの方におすすめできる時期です。
夏には深い緑が涼やかな陰影を生み、秋には紅葉が池泉に映り込み、静かな水面を鮮やかに染め上げます。冬には落葉した木々が石組みの造形美を際立たせ、庭の骨格そのものの美しさを感じさせてくれます。訪れるたびに新たな発見があることも、この名園の大きな魅力といえるでしょう。
所在地:富山県氷見市飯久保(光久寺境内)
アクセス:JR氷見線氷見駅から車で約15分、能越自動車道氷見ICから車で約10分。
また、加越能バス「飯久保」下車、徒歩約1分(約80m)と公共交通機関での来訪も可能です。
歴史と自然、そして匠の技が融合した光久寺の茶庭は、喧騒を離れて静かに自分と向き合うことのできる特別な空間です。俯いて池を眺め、仰いで山を望む――そのひとときは、日常の慌ただしさを忘れさせてくれることでしょう。氷見を訪れた際には、ぜひ足を運び、江戸の風雅を今に伝えるこの名園の趣をご堪能ください。