富山県高岡市に位置する高岡市万葉歴史館は、日本最古の歌集『万葉集』をテーマとした全国初の専門施設です。万葉の代表的歌人であり編者ともされる 大伴家持ゆかりの地に建てられ、1990年10月に開館しました。1989年の高岡市市制施行百周年を記念する事業の一環として整備された本館は、 万葉文化の研究・保存・発信を担う拠点として、多くの万葉愛好者や観光客を迎えています。
高岡は、奈良や飛鳥と並び称される万葉の重要な故地です。天平18年(746年)、大伴家持は越中国守としてこの地に赴任し、 約5年間の在任中に223首もの歌を詠みました。越中で詠まれた、あるいは越中に関わる歌は「越中万葉」と呼ばれ、 その数は337首にも及びます。
歴史館は、家持が政務を執った越中国庁跡にほど近い伏木一宮の高台に建てられており、当時と同じように二上山や周囲の自然を望むことができます。 家持が眺め、歌に詠んだ風景を、現代に生きる私たちもまた体感できる場所なのです。
令和3年にリニューアルされた「万葉体感エリア」では、 大伴家持が越中赴任中に詠んだ名歌10首を、 高岡の四季折々の自然映像とともに三方向の大型スクリーンに映し出す 大迫力のプロジェクションマッピングが上映されます(約8分)。
包み込まれるような没入型空間の中で、 いにしえの越中万葉の世界に身をゆだねる体験は圧巻です。 映像の一部には、高岡市出身の挿絵作家・佐竹美保氏による描き下ろし作品も使用され、 文学と美術が融合した芸術的な演出が来館者を魅了します。
万葉学習エリアでは、万葉集の基礎知識から越中国の歴史、大伴家持の人生まで、 初めての方にも分かりやすく展示されています。
「万葉集○×クイズ」や「万葉仮名で名刺を作ろう」などの体験コーナーでは、 子どもから大人まで楽しみながら学ぶことができます。 また、越中国府推定復元ジオラマや木簡の複製、 天平時代の生活模型なども展示され、当時の暮らしが具体的に理解できます。
館内の図書閲覧室には、万葉集や上代文学に関する図書・研究論文約85,000冊が収蔵されています。 貴重な古写本や断簡、注釈書なども保存されており、 学術研究の拠点としても高い評価を受けています。
開館以来続けられている調査研究の成果は、 教育普及活動や「万葉のふるさとづくり」に活用され、 万葉文化の全国発信基地としての役割を担っています。
敷地内には約70種類の万葉植物が植栽された回遊式庭園「四季の庭」が広がります。
ウメやヤマザクラ、ヤマブキなどが咲き誇り、 万葉歌に詠まれた春の情景が再現されています。
ケヤキやタブノキの木陰の中、芝生とせせらぎが涼やかな空間を演出します。
ヤマモミジやクヌギが色づき、 ハギやススキが秋の趣を深めます。
枯山水の静寂な空間が広がり、 万葉の時代の精神性を感じさせます。
高岡市の象徴的な山、二上山の山頂近くには、 若き日の大伴家持の銅像が建てられています。 右手に筆を持ち、静かに遠くを見つめる姿は、 万葉の里を象徴する存在です。
家持は二上山を題材に多くの歌を詠みました。 「玉くしげ 二上山に鳴く鳥の 声の恋しき 時は来にけり」 という歌には、二上山に鳴くホトトギスへの想いが込められています。
JR高岡駅から約6kmに位置する二上山公園は、 能登半島国定公園の一部に含まれ、 万葉ラインと呼ばれる周遊道路を中心に展望や自然散策を楽しめます。 月や紅葉の名所としても知られ、 四季折々の景色が訪れる人を魅了します。
城山園地には昭和44年建立の平和観音像が立ち、 市内を見下ろしながら世界平和と人類繁栄を祈っています。
また、重さ11トンを誇る大梵鐘「平和の鐘」は、 誰でも自由に撞くことができる鐘としては国内最大級。 その響きは山上から遠くまで広がり、 訪れる人々に平和への祈りを呼びかけます。
大伴家持(718-785)は奈良時代の公卿であり歌人。 『万葉集』全体4516首のうち473首を残し、 その存在は万葉文化を語るうえで欠かせません。
越中在任中の5年間は、 政治的緊張から離れ、歌人として大きく飛躍した時期でした。 雄大な自然に触発され、歌風は新境地を開き、 後の王朝和歌への橋渡しとなる重要な役割を果たしました。
高岡市万葉歴史館と二上山公園を巡る旅は、 単なる観光ではなく、千三百年前の心と出会う時間です。 家持が見た風景、詠んだ言葉、 越中の自然と人々の営みが、 今もなお静かに息づいています。
万葉の歌に思いをはせながら、 歴史と自然が織りなす高岡の魅力を、 ぜひ体感してみてはいかがでしょうか。