宇奈月神社は、富山県黒部市、黒部峡谷の玄関口に広がる宇奈月温泉街に鎮座する神社です。黒部峡谷鉄道 宇奈月駅のほど近くに位置し、温泉街の散策途中にも立ち寄りやすい場所にあります。風情ある町並みと峡谷の雄大な自然に包まれながら、地域の歴史と人々の願いを今に伝える存在です。
宇奈月温泉の発展に伴い、地域住民や企業、工事関係者らの協力によって創建されたのが宇奈月神社です。1927年(昭和2年)に創立され、温泉地の守り神として長年親しまれてきました。
宇奈月温泉は、約7キロ上流にある黒薙温泉を源泉とし、地下に埋設した木製の引湯管によって温泉を引いて発展した温泉地です。その歩みを支えてきた歴史の中心に、この神社もまた存在しています。
御祭神には、天照皇大神をはじめ、大山津見神、大山久比神、水波象女神、訶遇突智神、誉田別尊が祀られています。自然や水、火、産業、繁栄にゆかりのある神々が祀られ、温泉地と峡谷の安全、地域の繁栄を見守っています。
境内は決して大きくはありませんが、静かで落ち着いた空気が流れ、旅の途中に心を整えるのにふさわしい場所です。春祭(5月15日)、祈年祭(5月21日)、秋祭(9月15日)などの例祭では、地域の人々が集い、伝統を今に伝えています。
宇奈月神社で近年特に注目を集めているのが、「権利ノ濫用除お守り」です。これは宇奈月温泉開湯100周年を迎えた2023年4月より授与が始まった特別なお守りで、毎月第1日曜日の10時から12時に授与されています。
このお守りは、パワハラやセクハラなどのハラスメント、嫌がらせやいじめなど、立場や権利を濫用して他者を傷つける行為から身を守ることを願って授与されています。肌身離さず携帯することで、良い人や環境、良縁に恵まれるよう祈祷されています。
新しい生活を始める方、社会へ巣立つお子様への贈り物、あるいは困難な状況にあるご友人への励ましとしても選ばれており、現代社会に寄り添う神社の新たな取り組みとして大きな反響を呼んでいます。
このお守りの背景には、日本の法制史に大きな影響を与えた「宇奈月温泉事件」があります。昭和初期、宇奈月温泉へお湯を引く木製の引湯管が、わずかな面積ながら利用権を得ていない土地を通過していたことが発端となりました。
土地を購入した人物が、引湯管の撤去、もしくは法外な価格での土地買い取りを求めて提訴。温泉の生命線ともいえる引湯管が撤去されれば、宇奈月温泉は存続の危機に直面する状況でした。
最終的に当時の大審院は、この請求を「権利ノ濫用」にあたるとして退けました。権利の行使であっても、その目的や結果が社会通念に照らして不当であれば認められないと明確に示した、画期的な判決でした。
この判例は後の民法改正にも影響を与え、日本の法学教育において重要な位置を占めています。そのため宇奈月は「民法の聖地」とも呼ばれ、法律関係者が訪れる地ともなっています。
温泉を支えた木製の引湯管は、アカマツで作られ、1本約2メートルの管を約3500本つなぎ、黒薙温泉から宇奈月まで供給していました。保温性に優れた木管は昭和25年頃から約30年間使用され、温泉街の発展を陰で支え続けました。
現在、事件現場は宇奈月ダム建設によりダム湖の水面下にありますが、湖畔には記念碑が建てられ、歴史を今に伝えています。
宇奈月神社は、単なる観光名所ではなく、温泉地の歴史と精神を象徴する場所です。温泉街の賑わいの中にありながら、境内には静かな時間が流れています。
宇奈月温泉を訪れた際には、ぜひ足を運び、地域の歩みや人々の願いに思いを馳せてみてください。峡谷の自然、温泉の恵み、そして歴史を支えた祈りの場として、宇奈月神社はこれからも多くの人々を静かに迎え続けています。