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せり込み蝶六

(せりこみ ちょうろく)

魚津が誇る民謡

せり込み蝶六は、富山県魚津市に古くから伝わる代表的な民謡であり、地域の誇りとして今も大切に歌い継がれています。越中国の時代から続くこの唄と踊りは、念仏の響きを源流に持ち、祈りと歓喜が一体となった独特のリズムと所作が特徴です。

毎年8月初旬に開催されるじゃんとこい魚津まつりの最終日には、「せり込み蝶六街流し」が行われ、市民や企業、団体などおよそ2,500~3,000人が参加します。日の丸の扇子を両手に持ち、蝶が舞うように優雅かつ力強く踊る姿は、魚津の夏を象徴する光景です。

その起源 ― 念仏口説きから生まれた祈りの踊り

せり込み蝶六の起源は、浄土真宗の仏教口説きにあるといわれています。江戸時代、越後国の瞽女(ごぜ)たちが全国へ口説唄を広める中で、この地にも伝わり、やがて魚津の風土に根ざした独自の民謡へと発展しました。

毎年お盆になると、寺院や神社の境内で、笠や提灯、扇子などを手に、祖先の御霊を慰め、豊作を祈願して夜通し踊り明かしたのが始まりと伝えられています。踊りの基本は、念仏・祈り・感動・喜びから成る「踊躍歓喜(ゆやくかんぎ)」。人々の心の底から湧き上がる信仰心と喜びが、そのまま舞となって表現されています。

「せり込み」とは「口速や(くちばや)」を意味し、「蝶六」は揺れ動く様子を表す言葉が転じたものともいわれています。激しい音頭のリズムに合わせ、蝶が舞うように軽やかに、しかし力強く踊る姿から、この名が付いたと伝えられています。

名称の誕生と保存活動

昭和21年(1946年)、富山県民謡大会に村木地区の青年会が出場した際、民謡研究家の町田嘉章氏が、せり唄と瞽女唄の口説を合わせて「せり込み蝶六」と命名したといわれています。同年には保存会が発足し、伝統の体系化と継承が進められました。

その後、1963年(昭和38年)4月1日には魚津市の無形民俗文化財に指定され、地域文化として確固たる地位を築きます。現在も魚津せり込み蝶六保存会が中心となり、唄と踊りの正調を守りながら、後世への伝承に力を注いでいます。

唄と囃子 ― 「じゃんとこい」の響き

せり込み蝶六の唄(音頭)には、「正調舞台音頭(魚津四季)」「本唄古代神」「二十八日口徳(歓喜嘆)」「口説き節」などがあります。唄の合間には「じゃんとこーい、じゃんとこーい」という囃子詞(はやしことば)が入り、会場全体を一体感で包み込みます。

この「じゃんとこい」は「たくさん来てください」という意味を込めた言葉であり、祭りの名称にも用いられています。演奏には三味線、胡弓、太鼓、鉦が使われ、生演奏と生唄による迫力ある響きが、踊り手の高揚感をさらに高めます。

多彩な踊りの種類

最もよく踊られるのは、両手に扇子を持つ「扇子踊り」です。扇子は末広がりで縁起が良いとされ、祝いと繁栄の象徴でもあります。そのほかにも、提灯踊り、花笠踊り、蛇の目踊り、菅笠踊り、手踊りなど、さまざまな型が存在します。

扇子踊りの中にも「勢振り踊り」「波踊り」「川崎づくし」など細かな型があり、地域や団体ごとに特色が表れます。現在は踊られなくなった型もありますが、伝統の研究と復元の取り組みも続けられています。

じゃんとこい魚津まつり ― 魚津最大の夏祭り

じゃんとこい魚津まつりは、毎年8月第1金曜日から日曜日までの3日間にわたり開催される魚津市最大のイベントです。1970年に「魚津観光まつり」として始まり、1987年より現在の名称となりました。

初日は勇壮な「たてもん祭り」、2日目は「海上花火大会」、そして最終日に「せり込み蝶六街流し」が行われます。祭り期間中、魚津の街は熱気と歓声に包まれ、一年で最も活気あふれる時を迎えます。

せり込み蝶六街流し

最終日の夕刻、市内中心部の通りを舞台に、各チームが趣向を凝らした衣装と踊りで街を流します。保存会の生唄と生演奏に合わせて約3時間にわたり踊り続け、最後は保存会による模範演技で締めくくられます。審査も行われ、後日各賞が発表されます。

海上花火大会

魚津港沖の台船から打ち上げられる花火は、新川地区最大級の規模を誇ります。しんきろうロード沿いから望む夜空と海面に映る光は幻想的で、たてもん祭りの灯りとともに魚津の夜を彩ります。

UO!JAZZ

近年は海辺のジャズイベント「UO!JAZZ」も開催され、夕暮れの海と音楽が融合する新たな魅力を創出しています。伝統と現代文化が調和する点も、この祭りの大きな特色です。

地域に根づく継承活動

せり込み蝶六は、市内の小学校で授業として教えられており、魚津で育った多くの人々が自然に踊ることができます。こうした教育活動により、世代を超えて文化が受け継がれています。

また、あいの風とやま鉄道魚津駅の到着メロディにもアレンジ曲が採用されるなど、日常生活の中にもその旋律が息づいています。地域全体がこの民謡を誇りとし、未来へつなげようとする姿勢が感じられます。

観光としての魅力

せり込み蝶六は、単なる踊りではなく、祈りと感謝、そして歓喜が融合した精神文化そのものです。極楽蝶のように舞う扇子、力強い囃子、観客と踊り手が一体となる高揚感は、現地でしか味わえない感動を生み出します。

魚津の夏を訪れるなら、ぜひ「じゃんとこい魚津まつり」の最終日に足を運んでみてください。「じゃんとこい!」という掛け声とともに、三百年以上の歴史を持つ民謡の世界へと誘われることでしょう。伝統と情熱が交差するこの瞬間こそ、魚津観光の大きな魅力のひとつなのです。

Information

名称
せり込み蝶六
(せりこみ ちょうろく)

黒部・宇奈月

富山県